➁愛着があって捨てられないの巻

このブログでは、「家具でお困りの全ての方の、心、判断の基準の助けになる、リアルで有用な情報」を書かせていただいています。

家具の買い替え、家具の修理、とりわけテーブルの塗り替えや椅子の張り替え、椅子のぐらつき直し、椅子の塗装、箪笥や食器棚の蝶番の修理、ソファの張り替え、ソファの座面内のクッションの入れ替え、リメイクなど、幅広い守備範囲と経験、知識、でお客様をサポートさせていただいております。

毎日10件前後のお問い合わせをいただき、皆様の疑問、質問にお答えしています。そのリアルな情報を、できる範囲で皆様にご提供してまいります。家具修理ご検討の一助になれば幸いです。

「愛着があって捨てられない」という悩み

さて、改めまして、みなさん、こんにちは。

家具クリニック店主の矢野です。

今日は、家具修理を検討するお客様がお持ちの理由の第2弾です。

表題の通り「愛着があって捨てられない」です。

これはとても悩ましい迷いですね。

根っこには、日本人らしさがあるような気がします。

どこにでも神様がいて、何にでも「魂」があると感じているのかな、と感じます。(僕もそういうところが多分にあります(;^_^A  だからこのお仕事をさせてもらってるんでしょうね。)自分が大切に使ってきた家具、座っていた椅子の座面、使っていた食卓の天板の面、触れていたところ全てに、モノと自分の「魂」が入っているような、そんな感覚なのでしょうか。

僕も昔、子供の頃、たたまれた服の一部が折れていたりすると、「服が痛いんじゃないか」なんて思って、よくそっと直したりしていたものです(笑) ちょっと変な子供ですよね(笑)でも、僕だけじゃなく、そういう方は結構いらっしゃるんですよ。

以前知り合った方で、「旅行先のホテルでごみを捨てて帰れない。何か自分の子供を捨てていってるような感覚で現地で捨てられず、家に帰ってから捨てるんです。」という方もいらっしいました。もちろん僕の反応は「わかるぅ~!」でした(笑)

僕自身は、そういう感覚はとてもいいことだと思っています。

実際のお客様の声

さて、以下に上げるのは、悩んでいるお客様の実際のお声です。

「家具の修理なんて、家電なんかと同じで、修理する方が高くつくだろうから買い替えた方がいいんだろうな、とはわかっているんだけど、これまで一緒に生活していた相棒みたいなもんやしね」

「私は大切に使い続けたいんだけど、旦那が『そんなん買い替えたらいいやん』って言うからね。。。。それが簡単に出来たら苦労ないんやけど。。。。」

子供が使っていた学習デスクを捨てようと思うんだけど、どうしようかとそれをみているとそこで宿題をしていたり、本を読んでいたりしていた姿が浮かんできて、なかなか捨てられないのよね。。。もう大学生で他府県に行ったから使わないんだけどね。。。」

ダイニングテーブル、どうにかしなきゃいけないんだけど、家族みんなで囲んだ食卓の思い出が浮かんでくると、どうしても処分は出来ないけど、だからって修理は高くつきそうで怖いし、誰に聞いていいか、どんな業者に頼めばいいかわからないし。。。。

だいたいはこのようなことでお悩みになっています。苦しいところですよね。。。

迷いの本質:「思い入れ」と「コスト」のバランス

シンプルに言ってしまえば、

「思い入れとコスト」のバランスで悩まれている、ということです。

基本的な優先事項は思い入れです。これは間違いありません。

だからと言って無限にコストをかけることはできない。見積を頼んでみたけど、とんでもないコストを提示されて、あきらめざるを得なくなることで、思い入れのある家具を処分する「明確な理由を確定する」ことが怖いし、家族の中で反対されてる方に「処分を後押しする理由」を与えてしまうことが嫌だ、といった漠然とした不安と恐れが、「どうするかの検討の一歩」を躊躇させるのではないか、と感じています。

それほど、「思い入れのある家具を処分する」ということは難しいことなのです。

少し話は逸れますが、私などは、高機能低価格で傷まないので、ユニクロの服はよく買います。というより、「よく買うようになった」と言った方が正解です。顧客の心理をよく理解しているから、捨てる服を回収してリユースして循環させる取り組みをしているからです。(賛否両論あって実態は知り得ませんが、少なくとも性善説で信じるしかありません)やはり捨てて燃やす、ということが嫌なんでしょうね。お客様も私も(;^_^A

家具クリニックができること

さて、そこで「私たち家具クリニックができることは何なのか」、です。

主には以下2点に集約されると思っています。

➀一人で悩んでいるお客様の気持ちや、悩みをとことんお聞きし、専門家として、処分をする理由を与えてあげて、「処分する」という辛さ、忍びなさを、「お客様と私どもで責任を分担すること」

➁数字だけを見れば高額コストで修理しない方が良いと思える状況でも、それを修理するメリットがある、ということをしっかりと納得できる根拠を提示して、「修理をしたい」という心の奥底にある本当の気持ちの後押しをして、お尻を押してあげること。

僕はそう思ってお客様とお話をしています。

①責任の分担という考え方

まず➀の「責任の分担」です。

お客様はどこかでもう理解されているし、結論も出ています。「もう処分した方がいい」ということ。でも、罪悪感があって踏み切れないのです。だから専門家に、そのお客様以外の世間のお客様の例も網羅して確認し、「処分してもいいんじゃないですか?」と言って欲しいのです。シンプルに言えば、「専門家のせい」にして、処分したいのです(笑)「専門業者がそういったから、私は使い続けたかったけど処分することにしたの」と言えたら、少しは心が軽くなるのです。

だから僕は「責任の分担」と考えている、ということなのです。

とても失礼な言い方なのですが、敢えて言いますと、こういうお客様を「可愛いな」と思って接しているのです。だから分担してあげたくなる、というか。

どんなに思い入れがあっても「現実」というものはあります。そんなことばかり言っていたら家の中がモノで溢れて、それこそ何のための家具なのかわからなくなります。

家具店は「道具商」と呼びます。道具とは生活などを便利に豊かにするためのツールです。それが今の生活に大きさや用途が合わない、傷みすぎていて快適に使えない、それを改善するコストを考えた時に、明らかにコストメリットがない、などという時には、はっきりと「処分をお勧めします。ここまで十分大切にお使いになったので大丈夫です」とお伝えしてあげることが大切だと思っています。

もちろん最後はお客様の判断であり、決断です。しかし、例えば法律にかかわることは弁護士さんがいますし、お金のことは税理士さんや会計士さんがいらっしゃいます。なら、家具にも専門家としての家具の専門家も必要だと思います。一生の内、家具の購入や、買い替えや、修理なんてそんなにありません。だからこそ、具体的なたくさんのケースを見ている専門家に判断基準を提供してもらうことは、お客様の権利だと思います。だから大いに「矢野のせい」にしてもらえたらと思います(笑)

②コスト判断の基準

次に➁コストの判断基準です。

これには私がお伝えしている「基準」があります。

つまり「いくらで直ればコストメリットと考えられるか」です。

結論から申しますと

まず第一に「当時購入した価格の半額以下」です。

第二に「同じレベルのものを今購入するといくらかかるのか」です。

基準1:当時購入した価格の半額以下

まず、当時購入した価格の半額以下についてです。これはまず、「修理するか、買い替えるか」の判断に際しての、僕が接してきた数えきれない数のお客様のお声をお聞きしてきた中での感覚です。「新品を超えたり、新品と一緒位なら買い替えるでしょ」というのが基本的な考え方で、よく理解できます。

そうすると、例えば椅子の張り替えについて、当時の購入金額が1脚3万円だとすると、修理予算は1万5千円ということになります。これが椅子の張り替えだけなら修理メリットになる可能性は十分にあります。

しかし、椅子の本体がぐらついている、椅子本体の塗装が傷んでいるから塗り替えたい、というように修理項目を増やしていくと、新品価格をはるかに超えていくこともあります。従って当然、新品の半額以下での修理は難しい、ということになります。例えば以下のイメージです。

当時の新品価格3万円

対して修理価格

  • 椅子の座面の張り替え1万3千円
  • 本体ぐらつき締め直し1万2千円
  • 椅子の塗り替え1万5千円

合計4万円です。当時の新品価格は超えています。ということは、修理をするメリットがない、という判断になり、この瞬間「処分をする明確な理由を確定する」ことになってしまい、ショックを受けることになります。

基準2:現代で同じものを買う場合

しかし、ここで第二の基準、「現代に同じものを購入するとしたらいくらかかるか」の基準があります。

私どもにお声がけいただく時には、既に購入後20年~40年前経過しています。この20年間で新品価格は約2~3倍になっています。つまり、当時の購入金額3万円だったものが、現代であれば6~9万円になっているということです。そうしますと、修理金額合計4万円というのは、現代同じクラスのものを購入する費用に比べると、修理の方がかなりお安い、ということになります。

ここでの条件はあくまで、「同じクラスのものを買うとすれば」です。現代は、当時になかった量販店でかなりお安いものもたくさんあります。もちろん品質や耐久性は様々ですので、同じ土俵に乗せることは違うと思います。これまで使ってきた20年~40年耐えられる安価なものがあるかと言えば、そうではありませんので。

しかし、ここは価値観の問題です。長持ちするものを大切に使い続けるのか、傷めばどんどん買い替えるのか。これには正解はありませんし、正しいも悪いもありません。人それぞれの価値観の問題であり、自由です。

僕が示したものはあくまで「ひとつの基準」です。お客様が判断できるようにするための基準を示しているにすぎません。

最後に

「愛着・思い入れ」に区切りをつけて、今ある家具を処分し、快適でウキウキするようなインテリアのある暮らしを目指すのか、

「愛着・思い入れに素直に従い」、「修理をしていいんだ」という自信と納得の元に、その想い素直に従って、実現していくのか。

私たちができることはあくまで聞き役であり、助言役であり、サポーターなのです。それ以上でもそれ以下でもありません。私たちが決めることはできないのです。

わからないこと、悩んでいること、納得がいかないこと、不安なこと、どんなことでも結構です。素直にストレートにぶつけてください。

些少ではございますが、経験、知識、知恵を総動員して、全力でサポートさせていただきます。皆様とお会いできる日を楽しみにしております。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

また次回をお楽しみに。

ありがとうございました。

この記事を書いた人

家具クリニック 矢野

リペアディレクター。直すが良いか、買い替えが良いか、専門家が正直にお答えします。家具を直す=心を治す。京都出身。商社・木工学校を経て現職。何はさておきお仏壇に合唱。二人の娘が”元気の源”。甘いものさえあれば生きていける。